たぬきケーキを探す旅で北海道の木古内町を訪れたときのこと。
昼ごはんをどこかで取ろうかと思ってあたりを見回したら、 電柱にあった「焼きそば」の文字。 わざわざ電柱に貼るくらいなら美味しい店なんだろうと、 駅前にあった「食堂 急行」というお店へ向かった。
相当長いことやってることが一発でわかる外観、 ふるぼけた食品サンプル、意味のよくわからない置き物。いい。 すごくいい。
ものすごく趣きのあるドアを開けて店内に入ると、 お店の人と思われる小さいおばあさんが1人、ストーブのそばに座っていた。やきそばの大、 と告げて店の中心にあるテーブルについた。
改めて見回すと、ありがちな置き物、ポスター、メニュー、 注意書き。 雑多な感じなんだけど計算しつくされてるように雰囲気にマッチし ている。店内に掲げられているメニューには、やきそば弁当、 やきそば(中)、やきそば(大)のほか、 ラーメンやビールの表記がある。でも違うところをみたら「 やきそばしか作りません」との注意書きも。「?」となる。
カウンターの上の観葉植物のすきまから厨房を覗く。 てっきり旦那さんか誰かが作るものだと思っていたら、 おばあさんが大きな中華鍋をふってて驚いた。
店内には自分ひとり。そのわりに遅いな、 と思ったあたりでおばあさんがお茶とソース、 次にやきそばを持ってきた。 銀のプレートに盛られたやきそばはとても具が多く、 ソースが馴染んでて美味しかった。 個人的に嬉しかったのはぶつ切りのナルト?かまぼこ?。厚く雑に切られていたけど、「 おふくろの味」を超えた「実家感」を感じた。
食べている間、おばあさんはストーブのそばでじっとしていた。 特に私を見るわけでもなく。特に何か喋るわけでもなく。 時間があったので、 普段早食いな私としては比較的ゆっくりと食べた。
食べ終わって、さて会計を、 と席を立ったところ、
「どっから来たんす」
おばあさんが話しかけてきた。
青森からです、と答えると、おばあさんは青森の思い出を話しだした。
店を切り盛りしているおばあさんの名前は垣内キミさん。御年84歳で、店を始めて56年とのこと。一度大手術をしたり膝が悪かったりするようだけど、たいへん元気でいらっしゃる。その証拠に、おばあさんの話が止まらない。八戸に親戚がいる話、三沢の古牧温泉に泊まった話など青森の思い出話を過ぎて、そこから今度はおばあさんの人生の話へ。
店内を見回してみてもわかるとおり、元々は焼きそばだけじゃなくていろいろな料理を作って出していたようだけど、さすがに高齢になってからは一番人気の焼きそば1本に絞っている。それでも注文が集中するともうパニックになるから断ってしまうこともあるとのこと(後日このお店のことをネットで調べたら、おばあさんに強い口調で断られた、という書き込みをいくつか発見、断られた方としては納得しないだろうけどまぁしかたないわなぁとも思う)。
店内を見回してみてもわかるとおり、元々は焼きそばだけじゃなくていろいろな料理を作って出していたようだけど、さすがに高齢になってからは一番人気の焼きそば1本に絞っている。それでも注文が集中するともうパニックになるから断ってしまうこともあるとのこと(後日このお店のことをネットで調べたら、おばあさんに強い口調で断られた、という書き込みをいくつか発見、断られた方としては納得しないだろうけどまぁしかたないわなぁとも思う)。
ほんと、たくさんの話を聞いた。すべて垣内さんの波乱に満ちた人生についてで、あまりにもプライベートな話だから内容はほとんど書けない。ただ、これまでの苦労について「たくさん苦労はしたけれども、苦労はしなきゃダメだ、苦労があるから人生を楽しめる」と笑って言ってのけられる垣内さんは凄すぎて、自分が相談していたわけではないのにいろいろな心のつっかえが取れた気分にすらなった。
店の中にはいくつか垣内さんの写真が掲げられている。お客さんが撮って、引き伸ばして送ってきたものだそうだ。ああ、そういうのいいな、と思った。「これ」と渡されたファイルには新聞や雑誌に載ったときの切り抜きがまとめられ、恥ずかしいんだけど、というわりにはどこか誇らしげだった。
今、木古内駅では新幹線が停まるための駅を作っている。「急行」は駅のすぐ目の前にあるんだけど、ここもロータリーになるために建物自体壊すことになるんだそうだ。
なんてもったいない。
じゃあ辞めちゃうんですか?と聞いたら、
「いや、よそでやる。やれるだけやる。こないだ土地も用意したし」
ものすごくあっさりと続投宣言。すごい、自分が84歳になったときに仕事をし続けようと思えるんだろうか。苦労に鍛えぬかれてきた人は強い。今年度中で一度店を閉めて、来年また木古内町内のどこかで再開する予定とのこと。一応後継者も考えてるみたいだけど、垣内さん自身もやれるだけやる、と。
この建物、この雰囲気が無くなるのが惜しいので許可をもらって写真を撮った。もちろん、垣内さんの写真も撮らせていただいたので、あとでプリントして送ろうと思う。
とりあえず、無くなることが決まっているお店なので、できるだけ早く行ったほうがいいです。できれば平日、お昼を外した時間がいいかもしれません。私は必ずまた行きます。
急行食堂
〒049-0422 北海道上磯郡木古内町本町532(木古内駅から出て徒歩30秒)営業日・時間: ほぼ年中無休、午後7時半まで
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